〖鈴木が創業したFRの常務取締役だった天野裕氏が新宿の京王プラザホテルの一室で自殺したが、会社は天野氏が自宅で急病を発して死亡したと発表した。自宅での病死には警察の検視が入る筈だが、その辺の詳細については明らかにしていない。天野氏周辺への取材では「天野氏は、ホテルの一室で殺された」という不審死情報が流れていた。この情報は警察には届いていなかったのだろうか。結局天野氏の死は病死として処理され真相は未解明のままだ〗
〖西は、志村化工株事件で鈴木の身代わりで逮捕されることはA氏に報告したが、鈴木との密約は内緒にした。A氏は西の話を聞いて西の身を案じながら西の男気を感じたのではないだろうか。西も自分の欲の為なら3年ぐらいは自由に動けなくても平気だったのだろう。後日解った事だが、鈴木との約束は株取引の利益配当金であった様だ。しかし、この約束は果たされることなく西は自殺に追い込まれることになる。鈴木のやり方は血も涙もない酷い仕打ちだった〗
〖鈴木は、今一度、今までの人生を振り返って考えてみたらどうだ。お前ほどの悪党が、1度も刑務所暮らしをせずに贅沢な暮らしができているのは一体誰のおかげなのか。A氏を騙して奪った金で今の生活が成り立っているはずだ。遅かれ早かれ懺悔する時が来るだろう。自分次第でいつでも改心の道は開ける〗
〖株価はその会社の業績次第で上下動するものではないらしい。特に仕手株と呼ばれる株は相場に参加した投資家の資金力と思惑で株価が乱高下する。鈴木の様に発行株数が比較的少ない銘柄を安値で購入し、A氏を裏切って隠匿した莫大な資金を使って買い上がり、一般投資家を巻き込んで相場に火をつけ、高値を付けた時に売り抜けるやり方は確実に利益を生んでいた様だ。しかし、それは相場操作であり、インサイダー取引で金商法違反だが、ペーパーカンパニー名義で売買を繰り返している為に鈴木の名前は表面化しなかった〗
〖鈴木は順調に株式投資で利益を上げていたようだが、志村化工株の相場操作で証券取引等監視委員会にマークされ検察庁に告発された。この相場には西も参加し、FRで鈴木の部下だった武内一美の名前もあった。検察庁は鈴木を主犯と見ていたが、西や武内への事情聴取からは有力情報がないまま捜査を進め、武内の自宅を家宅捜査した。これを見ていた鈴木は流石に身の危険を感じ、西に土下座をして罪を被らせた〗
〖50年近く弁護士をやって、1万人以上のトラブルの裁判を手掛けてきた西中務氏曰く、悪い事で得た成功は一時的なもので長続きせず、多くは後に悲惨な末路に至ると語っている。続けて「天網恢々疎にして漏らさず」という諺があるように、悪いことをすれば、必ず人智の及ばないものによって罰が与えられるとの事だ。普通に考えて裏切り者の鈴木は、ロクな死に方はしないだろう〗
〖志村化工株事件で検察庁の捜査が自分に迫って来たことを実感じた鈴木は、西に面談を申し入れた。鈴木は西に「今後、西会長の言う事は何でも聞きますから事情聴取では私の名前を絶対に喋らないで下さい」と土下座して頼んだ。自分が困った時に、鈴木は極端に低姿勢になり涙を流しながら土下座までする演技が得意だった〗
〖鈴木の弁護士達は裁判が始まると「この世ではあり得ない事」という言葉を連発してA氏側を牽制し誹謗した。当初は裁判長は品田ではなかったが、裁判官達に先入観を与えるには効果的だったように思う。訴訟金額は25億円だが、担保代わりに預けた約束手形以外に一部のものしか借用書も存在せず、全額が現金で手渡しの貸付だった。鈴木の弁護士達はA氏の現金の出所を追及してきた。その根拠はA氏の納税額とかけ離れた金額で反社会的組織の金銭が絡んでいるのではないかというストーリーを作り上げようとしたためだった。A氏の代理人弁護士は明確な反論をしなかったようだが、A氏が法廷に立って答弁することによって鈴木側の作戦は成功しなかったが、この頃からA氏の弁護団は鈴木側の弁護団の論法に押されていたような気がする。A氏の弁護士は途中で交代したが、裁判の最後まで鈴木の弁護士に主導権を握られてしまった。この裁判の判決が鈴木側の勝訴に終わった原因はA氏の弁護団にもあったような気がする〗
〖西は、志村化工株の相場操作で鈴木の身代わりになって懲役2年、執行猶予3年の刑を受けた。証券取引法違反は刑期が短く常習犯でなければ執行猶予が着く。西にとっては予想通りの判決だっただろう。鈴木は、約束した事を守る積りは無かったが、西は目先の金の魅力に負けて鈴木を信用してしまった。鈴木の方が悪党として1枚も2枚も上だった。鈴木は、西の執行猶予が満期になるまで3年という時間が稼げたうえに自分は無傷だったのだ〗(以下次号)